神様が見ている (妄想話)
函館港が一望できるホテルのテラス。
イブカは細い手すりの上で、器用にバランスを取って座っていた。
沈む夕日の影に、黒い髪が風に流されるまま揺れている。
「イブ」
「あんた、まだいたのか~」
背後から名を呼ばれたイブカが、
ぶらぶらと足を揺らしながら、軽く言葉を返した。
アルの返事はない。
どうしたのかと不思議に思って振り向けば、
困ったような、怒ったような、
それでいて今にも泣き出しそうな表情で、アルが立っていた。
「わかってたんだね、イブ」
イブカは、黙ってアルを見返した。
いつも見上げるばかりの顔は、
手すりに座っている分、イブカの頭一つ下へと見える。
「あのとき、ウィルバーが死ぬかもしれないって。
確かに彼は悪人だったかもしれない、でも…」
「あんた、ホントにお人よしだな~」
「イブ!」
「あいつに撃たれそうになったの、もー忘れたのか?」
雪と川村を庇って体当たりしてきたアルに、ウィルバーはすかさず拳銃を向けた。
イブカの妨害がなければ、間違いなく、アルは撃たれていたに違いない。
「でもそれは、やってはいけないことだよ」
アルの言葉に、イブカの瞳が冷たく細められる。
ウィルバーがやってきたことを考えれば、
デリートされて悲しむよりも、喜ぶ人間しかいないように思える。
それで一体、何が悪いのか。
「わかっているなら、やってはダメだ。
イブ、人の命はゲームの駒じゃない…」
イブカの赤い唇に、緩やかな笑みが浮かぶ。
どう判断すれば良いのか、分からずにアルが息を飲む。
「ゲームは嫌いか~?」
「これも…ゲームなのか?」
かすれた戸惑い声に答えず、
そのまま笑って、イブカの視線は海へと戻された。
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