2つ目の鍵 (妄想話)
「そうだ。これ、忘れないうちに渡しておくよ」
出掛けは急いでいたからね。
フラットに帰って来たアルはそう言うと、
ポケットから取り出した鍵を、ソファに寝転んだままのイブカの手に乗せた。
アルのフラットが泥棒に入られたのは、ある先日の事件でのことだ。
「用心のために 一応、玄関の鍵を変えたんだ」
「……」
手の中の小さな鍵を、イブカは呆れ顔で見つめる。
アルがフラットの鍵を変えたことなんてとっくに知ってたし、
シンに頼んで、新しいスペアキーも手に入れている。
「オレが今日、どーやって入ってきたと思ってんだ〜?」
「えっ、それは玄関から… あっ!」
「あんた、ニブイぜ〜」
「お前、また勝手にスペアキーを作ったんだな!?」
「こまかいこと気にすんなよ」
「じゃあ、その鍵はいらないだろ。返せっ!」
「オレ、もー寝る」
「イブッ!」
手を伸ばしたアルを素早くかわして、イブカは部屋に逃げ込んだ。
アルはまだ、扉の向こうで何かを怒鳴っている。
「わかってねーな〜」
イブカは手にした2つの鍵を並べて、小さく笑った。
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