+妄想
それはきみの夢だから (妄想話)

「イブカーッ! どうして部屋を散らかすんだっ!!」

扉を開けたアルは、目の前に広がる惨状に怒りの声をあげた。
猫のようにソファに丸く収まったイブカが、眠そうに身を起こす。

「少しは掃除しろって言ってるだろ!? それに、これは一体何なんだッ!?」

足元で踏み潰しかけた〔それ〕を避けながら、
部屋のいたるところに散らばった〔それ〕を懸命に拾って歩く。
アルの両腕の中は、あっという間にいっぱいになってしまう。

「気にすんなよ、ただのゴミだぜ〜」

「ただのゴミって… これ、大事なものじゃないか?」

「いらね〜」

「そんなわけないだろ、ほら!」

アルは拾い集めた〔それ〕を、イブカの腕に押し込んだ。
だがイブカの小さな腕には、とても全部入り切らない。

「いらねーってんだろ〜」

むっとした表情で、イブカが力いっぱい押し戻す。
同時に〔それ〕が、再びバラバラと床にこぼれ落ちていく。
アルがため息をついた。

「仕方ないなぁ… じゃあ半分、僕が持ってやるよ。それならいいだろ?」

「アンタしつこいぜ〜」

「ちゃんと話を聞けよ、イブ」

「きいてるぜ〜」



「――いいや、聞いてない!」

「なにを聞いてねーんだ〜?」

爽やかなベルガモットの香り。
アルの前には、ティーポットを持ってイブカが立っている。

「ゆ、夢か…」

アルは自分の置かれた状況を、しだいに理解する。
どうやらソファで本を読んでいるうちに、転寝をしていたようだ。

「アルも紅茶飲むか〜?」

「あ、ああ…。 ありがとう、もらうよ」

ティーカップを受け取ったアルは、目をこすりながら周囲を見渡した。
部屋中に散らかされたゴミは、何処にも見当たらない。

「何きょろきょろしてんだ?」

「いや… ないなって…」

「ああ? あんた、寝ぼけてるか〜?」

「ゴミ、かな? よく分からないけど、イブはそう言ってた」

「オレ、そんなコトいってねー」

「だから、夢の話だよ」

ふーん、と呟いて、イブカが紅茶をすする。

「オレもアルが出てくる夢なら、見たことあるぜ〜」

「えっ?」

聞くのが怖いようでもあるのだが、やはり気になる。
アルは恐る恐る、イブカに尋ねてみた。

「…どんな夢?」

「掃除しろ〜って怒鳴りながら、ゴミ拾ってた」

覚えのある光景に、アルが眉をひそめる。
その様子に、イブカがにんまりと薄い笑いを返す。

「夢ん中まで、アルは口ウルサイぜ〜」

「つまりそれは…夢の中でも、イブは掃除をしないってことだよな?」

「オレの夢で何しよーと、オレの勝手だ〜」

「それはそうだけど…」

アルは少し迷ったあとで、イブカに尋ねてみる。

「イブは一体、何を捨てたんだ?」

「ああ?」

「だから夢の中で、捨てたゴミは何だったんだ?」

今度はイブカが、眉をひそめる番だ。

「あんたの夢でオレが何しよーと、オレ関係ねー」

「そ、そうだよな」

「やっぱ、寝ぼけてるか〜?」


#禁断の夢オチで。
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