夏だから。 (妄想話)
「ピクニックに行こうぜ!!」
アルのフラットに昼前から押しかけて来たウルフが、
満面の笑みで何を言うかと思えば、開口一番このセリフだ。
「…ピクニック?」
淹れかけた紅茶の缶を手にしたまま、
あんぐりと口を開いて静止していたアルが、ようやく答えを返す。
「他に予定でもあんのか?」
「それは別にないけど、そういうことは前もって言ってくれよ」
「じゃ、オッケーだな!」
「だから! 急に言われても、準備とかあるだろ?
それに僕の都合が良くたって、イブの都合もあるだろうし…」
キッチンから届くアルの言葉に、
リビングのソファに座ったウルフが片眉を上げる。
俺はイブ公も一緒になんて、一言も言ってねえんだけど。
(…イブの都合は心配しても、オレの都合はお構いなしか?)
怪訝にウルフが考えた時、
イブカの部屋の扉が開いて、その主が眠そうに中から現れた。
「オレなら、別に構わねーぜ〜?」
大きな欠伸を噛みながらウルフの横を過ぎると、
キッチンのテーブルに身を乗り出して、アルの手元を覗きこむ。
「オレも、アッサム〜」
「わかったよ」
紅茶の葉を追加するアルの陰で、
椅子に座ったイブカが、ウルフに向けてニヤリと笑う。
(…あの野郎、ワザとやってやがる!!)
眉をひそめたウルフが、思考をめぐらせる。
それならそうで、こっちにも考えがあるぜ。
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ハイドパークにやってきた3人は、
日当たりの良い緑の芝を歩いて、適当に座る場所を選んだ。
パンケーキやフルーツなどが詰まった袋を、アルが腕から下ろす。
紅茶に、ウルフのリクエストでビールの缶も加えてあるが、
重量のあるそれを運ぶのは、ウルフの担当になっていた。
彼らが手際良く荷物を広げている間、
イブカは気がなさそうに、ぶらぶらと木の上を覗き込んでいるだけだ。
本日は快晴――。
周囲には彼らの他にも、
ピクニックにやってきた家族連れの姿が見える。
「けっ…」
一人呟いて振り返ったイブカは、ぎょっと目を見開いた。
ウルフがシャツの裾に手をかけると、唐突にそれを脱ぎ始めている。
「なっ…!? なんで、イキナリ服脱いでんだよっ!?」
ジャムの瓶を取り出していたアルが、
うろたえるイブカの様子を、不思議そうに見上げた。
「なんでって…」
「夏だから。」
アルとウルフが顔を見合わせて、当然のように答えを返す。
「日光浴は、この時期にしかできねえもんな」
「でも、下を脱ぐのはやめろよ」
「そーか? 中途半端に上だけ焼ける方が、おかしくねえか?」
二人が会話を交わしている間に、
イブカが強張った表情のまま、そろりと足を後に退く。
「おい、イブ公! お前も――」
ウルフの声に、イブカは飛び跳ねるように後を向くと、
恐ろしい勢いで公園の外に駆け出した。
「イブっ、どうしたんだ!?」
驚いて声をあげるアルの横で、ウルフが口の端に勝ち誇った笑いを浮かべている。
やがて遠く木々の向うから、イブカの怒声が微かに響いてきた。
「暴力男のヤロー、こんど絶対泣かす!!」
#ホントは夏に書きたかった話。
漫画でかければと思ったけど、挫折しましたので小説で。
最近シリアス方向ばっかなので、息抜きにギャグに走ってみました。
イブVSウルフで、ウルフの勝ちー。(笑)
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