ありがとう。きみがこうしてたどってくれた道筋こそが、僕が現実へと記した

唯一の足跡です。

僕の名前は、田嶋里志と言います。

きみはもう覚えていないかもしれませんが、三年間という短い高校生活の中

で僕はきみと出会いました。

どうしてそんなふうに、きみが僕を憎むのか。あの時の僕にはその理由が

全くわからず、ただきみの振り上げたナイフを懸命に止める事しか頭にあり

ませんでした。

あのナイフが裂こうとしたのは、結局何だったのか。

初めは僕の首に向けられ、最後にはきみの胸へと下ろされて、ついには僕

の腕を僅かに裂いたに過ぎない鋭い刃。何も変わらない、何も失ったわけ

ではないと僕は思っていました。

でもそれは違っていた。

あのとき、あのナイフが裂いたのはきみの心だったと…事故の後きみに会

いようやく僕は気付いたのです。僕が現実で生きるためには、僕自身の夢

を殺さねばならない。この日記に書かれていた言葉の意味、たとえば失って

しまったものがきみの夢ならば、僕の現実は容易く崩れてしまう他はない。

ドッペルゲンガー(二重自我)とは、実現されることのなかった可能性として

の自己象であり、運命のかたちである。実現されることのなかった運命形成

のいっさいの可能性、また外的な不運によって貫徹されなかったいっさいの

自我の目標……やがて僕は思い始めてしまう。そんなものに過ぎないのだ

ろうか?

僕にとっての現実は……

いや、もう止そう。

きみはこの日記を手にしてくれたのだし、僕は現実という迷宮の扉を通り抜

ける手段を手に入れた。


もうすぐきみに会える。



BACK SIDE