■エングラム (engram)
どうやら少し熱がでてきたらしい。先ほどから僕の視界は少々揺らいでいる。冬の寒さを軽んじてはならないと母は叱咤するのだが、あの嘔吐を伴う不快感を思い出すと、どうしてもこれ以上の物質で身体を覆う気にはなれない。この全身を覆う皮膚の感覚は、着衣という異物に触れることで一層僕という存在の形を浮き彫りにする。僕は母の静止を押し切り、二度目の手段で上着を脱ぎ捨てた。
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武藤 浅河【むとう あさか】
強い境界者の能力を持ち、夢と現実との区別がつかない子供として幼い頃から周囲に気味悪がられていた。高校での級友である悠臣に対して、犯した罪の償いとして服従を強要されている。悠臣が目前で投身自殺をした際にユーラシオン・マスターとの契約を結び、悠臣の死という事実を消滅させるが、やがて精神の崩壊を起こし、無形想の深淵(ビュトス)でウロボロスに囚われた悠臣に出会う。控えめで、自分の意志をはっきりと告げる事もままならない性格。どもりがちな口調に、小柄な体躯、眼鏡を掛けた目立たぬ容姿。後に、バスの転落事故に巻き込まれ行方不明となる。
斎木 悠臣【さいき はるおみ】
浅河の級友で、同じく境界者の能力を持つ人物。彼の母が自分を死んだ父の身代わりとしか見ていないことを知り、絶望から殺害する。父の死亡原因が浅河にあると糾弾し、その償いを執拗に要求する。容易に他人を信用する事ができない性格で、母のように浅河が自分の存在を忘却するのを決して許さないように、目前で投身自殺をしてみせる。マスターと同じ顔を持つ。約子という年の離れた妹がいる。
斎木 約子【さいき やくこ】
悠臣の妹で強度のブラコン。浅河が兄を独占しているのだと誤解をして、彼にに冷たくあたる。
篠原 珪一【しのはら けいいち】
劇団「Kの擬音」で演ずる俳優。高橋、宮田とは同じ高校の出身。一見派手好きで軽そうに見られるが、飾らぬ性格に意外と人望があり、統率力のある人物。同じ劇団の友人、田嶋里志の死に疑問を持つ。
宮田 雄生【みやた ゆうき】
高橋の友人。蔦子の呪いを受けて、眠りについたまま目覚めないために「眠り姫」と呼ばれている。色素の薄い髪と、日本人離れした端整な顔立ちの人物。
高橋 要【たかはし かなめ】
雄生の幼なじみで、現在は国語教師。病弱だった姉・蔦子の死後、雄生の変貌に心を痛める。面倒見の良い性格の為に、篠原など多くの人間の不満の捌け口とされている。文系教師には見えない、大柄な体躯の人物。
高橋 蔦子【たかはし つたこ】
要の姉。生まれつき病弱で、若くして死亡する。雄生の元恋人。
三谷 弘史【みたに ひろし】
田嶋の友人で、医師を目指している大学生。高校時代には田嶋と共に役者を目指していたが、医師である父の抑圧を受けて進路を変更する。理想だった自分の姿を田嶋に投影することで自らの現実から逃避していたが、浅河との関わりによって自らの夢と現実の境を喪失してしまう。後にK大付属病院の医師となったことで天野と関わり、新たにダーウィンの事件へと巻き込まれてゆく。
田嶋 里志【たじま さとし】
三谷と同じ高校出身で、舞台俳優を目指す大学生。三谷によって、つくり出した虚像であると信じられている。後に劇団「Kの擬音」の俳優となるが、ある舞台公演の最終日に死亡したとされる。その後、彼の存在に関する資料はことごとく消滅している。
藤森 比沙子【ふじもり ひさこ】
劇団「Kの擬音」の女優で、篠原、田島の仕事仲間。
松岡 正也【まつおか まさや】
浅河と悠臣のクラスメイト。堅物で人当たりが悪く、同年齢の者と比べて物事に冷めている。シスコン。眼鏡をかけている。
松岡 友美【まつおか ともみ】
正也の妹。対人恐怖症。記憶を喪失される病にかかる。
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