+妄想
優しい毒1 (妄想話)

「おっ?」

シンからのメール着信音に、
ホテルのソファでスナック菓子を頬張っていたイブカは、
左手の液晶モニタに視線を移す。

腕時計の時刻を確かめているようにしか見えない仕草だが、
気付いたアルは、正しく反応した。

「メールかい?」

「啓からだ〜」

「ケイから? どうしたんだろう、何か事件かな」

背後で眉根をよせているアルに、イブカは首だけ回して視線を向けた。
イブカが液晶モニタのついた左腕を僅かに上げて角度を傾けると、
アルはソファの背後から、イブカの左肩越しに頭を乗り出して、
誘われるままモニタを覗き込む。

シンの冷却液チューブが内に通ったイブカのジャケットは、
まるで人肌に包まれたような暖かさを保っているが、
剥き出しにされた首筋は、
明らかにそれとは違う、人の温度をイブカに伝えてくる。

続いて、
困ったようなアルの言葉が、イブカの左耳へと響いた。

「イブ… これは、僕には読めないよ」

「そーだっけ?」

「だってこれ、日本語だろう?」

「そーかもな」

「そーかもなって…」

がっくりと力の抜けた声をあげて、アルはモニタから顔を離した。
日本語は分からないって知っているくせに、
どうしてイブは、読めもしないメールを見せたりするのだろう。

「スウィーツのおいしい店があっから、来ないか〜」

「え?」

「メールの内容。 聞いたの、あんただろ?」

「あ、ああ… そうだった。 よかった、事件じゃないんだね?」

安堵のため息をつくアルに、イブカが飄々とした返事をする。

「ま、今のところはな〜」

「えっ!?」

一人慌てるアルを残して、イブカは部屋を飛び出した。

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