+妄想
優しい毒2 (妄想話)

こじんまりとした、洒落たカフェで待っている。

「ここよ、イブくん!」

通りに面したガラスの向こうに、
見なれた赤い色を見つけた啓は、店の中から手を振った。

「おっ、チーズケーキのセットか〜」

やってきたイブカが、啓の食べていたレアチーズを眺めると
向かいの席にストンと座った。
うーん、と真剣な表情で、出されたメニューを睨む。

「美咲ちゃんのオススメなの。
 パフェも、おいしいって、イブくんどうする?」

「じゃ、イチゴにすっかな〜」


(あら…)

運ばれてきたイチゴパフェを頬張るイブカから、
覚えのある香りがするのに啓は気づいた。

「アルは、イブくんに会えたのね」

「どーしてわかるんだ?」

「うふふ、それはね。
 イブくんから、アルの使っていたコロンの移り香がしたのよ」

いたずらっぽく笑う啓を、イブカはきょとんとした顔で見返すと
自分の腕を顔に当てて匂いを嗅いで見る。

「わかんね〜」

「ずっと一緒にいると、匂いって、鼻が慣れて気づかないものよ」

「あんた、犬みたいだな」

「女は、香りに敏感なの」

「ビンカンなの〜」

山盛りにパフェをすくったスプーンを、口いっぱいに含んだ子供の顔で
イブカが言葉をくり返す。
啓は、以前から聞いてみたかったことを尋ねてみた。

「イブくんは、どうしてアルと一緒にいるの?」

「あんたは、どーして猫と一緒にいるんだ?」

えっ、と啓は戸惑う。

「猫…? ああ、マオのことね」

なぜかしら、と呟いて、彼の姿を思い浮かべる。

「そうね、彼はとても頼りになるわ。
 それに、私の持ってる可能性を引き出してくれるの」

理由なんて、考えたこともなかったけれど。
そう気づいて視線を戻すと、
真っ直ぐな蒼い瞳が、啓の顔を見返していた。
まるで、心の奥底まで見透かされたような気がして
返す言葉を失ってしまう。

「ごちそーさま」

いつのまにか、パフェを片付け終わったイブカが席を立った。
小さな背中が、視界から遠ざかる。
思い出したように息を吐くと、啓は、ぬるくなったコーヒーを飲みほした。

「きれいに、かわされちゃったわね」

でも、きっと、答えはわかっているんだわ。

「本当の理由なんて、みんな同じ…
 一緒にいたいから、そうしているだけなのよ」

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