+妄想
休日の過ごし方2 (妄想話)

「何にするか決まった?」

「うーん、悩むぜ〜」

イブカは真剣な表情で、手にしたメニュー表を睨んでいる。
何をそんなに悩むのかとアルが覗き込めば、
カラメルプティングとカスタードパイの写真を、イブカが交互に差し指す。

「蒸すか、焼くかの違いなんだけどな〜?」

味的に原材料はほぼ同じだと、言いたいらしい。
それでも目を移しながら決めかねている様子に、アルが笑いをもらす。

「僕がカスタードパイを頼むから、それで両方味見してみなよ」

「じゃ、そーすっか」

悩みが解決したイブカは、すぐさま紅茶とそれらを注文した。
側のテーブルには、ティーセットを囲んだ若い女性が2人、
先刻からアルとイブカの方を見ては、何やらささやき合っている。
途切れ途切れに聞こえるWORDを繋ぎ合わせれば、
全然違うタイプの組み合わせに、どちらが好みかとの話題らしい。

こういったシチュエーションは苦手だ。

困ったアルは、顔を隠すように大きなガラス窓から外を見つめる。
あの人たちには一体、自分達は何に見えているのだろう?
アルがふと、考える。
自分とイブカが出会った時、彼はまだ14歳の子供だった。
保護者と被保護者の関係など、誰の目にも明らかだったはずだ。
だが過ぎていく時は、あれから3年の変化をイブカの上に重ね続けている。

「せっかく気持ちのいい天気なんだから、外のテーブル席が良かったかなあ…」

「オレは、どっちだっていーぜ〜」

視線を左腕のモニタに向けたまま、イブカがそう答える。
目前に座るアルの存在など、既に心在らずといった様子だ。
アルは自分と〔シン〕との会話に余計な口を挟まずに、辛抱強く側にいられる人間だ。
イブカはそれを分かっているから、平気でアルの前では自分を放置する。

そのイブカが、ふいに首を傾げて呟きを止めた。
それまで黙って見ていたアルが、ゆっくりと声をかける。

「最近イブは、何を調べてるんだ?」

イブカの蒼い目は、きょとんとアルを見返す。
行動が見えすぎなアルにしては、質問の意図がわからない。

「どーして、そー思うんだ〜?」

「それは…このところ何度も〔シン〕と話をしながら、首を傾げてるじゃないか」

イブカが内心驚いている。
まさか、アルに気付かれているとは思わなかった。
だがその原因までは、分かっていないらしい。

「君がまた、事件に首を突っ込んでなければいいんだけど」

「あんた、考えすぎだぜ〜」

テーブルの上に、
運ばれてきた紅茶とカラメルプティング、カスタードパイが並ぶ。
イブカのフォークが素早く伸びて、アルの前にあるカスタードパイを突き刺した。
その変わらない無邪気な行動に、アルが小さく笑いを返す。

「…そう願うよ」

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