+妄想
休日の過ごし方4 (妄想話)

スコットランド・ヤード。
特捜部長室に呼び出されたアルは、レストレードの言葉に声を上げた。

「ええっ!? 僕…いえ、私がFBIの捜査に協力を!?」

「うむ。指名してきたのは、君も良く知っているあの男だ。
 理由は…まあそうだな、非常に君向きであるとだけ言っておこう」

レストレードが咳払いをして、言葉を濁す。
アルの良く知るFBIの人間と言えば、マオ・リー捜査官しかいない。
怪訝な面持ちで、アルが部長を見つめる。
アメリカ嫌いの部長がにこやかなのには、絶対何か裏があるのだ。

「まさか部長、またイブが事件に関わっているのですか?」

「何か思い当たることでもあるのかね?」

「い、いえ、そういうわけでは…」

イブカに抱いていた小さな疑惑を、アルが否定する。
まだ、はっきりとそう決まったわけではない。
レストレードが自慢のひげをなでつけながら、探るようにアルを見つめている。

「先日チャイナタウンで摘発された、不法販売取引事件は知っているな?」

「あれは確か、絶滅危惧動物における製品の件でしたね。
 はく製や漢方薬などが押収されて、現在分析中だと聞いていますが」

移り変わった話の展開に、アルが首を傾げた。
自分の担当分野ではないので事件の詳細まではわからないが、
おおよその概要ぐらいならば知っている。

「その件での密売ルートに関して、FBIでは何らかの情報を握っておるらしい」

「…らしい?」

アルの問いに、レストレードが頷く。

「ということは、情報提供は受けていないのですか?」

「向こうの捜査の都合上、今はそれができんと言うのだ。
 そこでワトソンくん、
 君は捜査に協力しつつ、さり気なくそれを探り出して欲しい」

「はあ…」

アルが力なく答える。
あのFBI特別捜査官相手に、自分が何を探り出せるというのだ。

「しっかり頼んだぞ」

肩を落としたアルが退室するのを見送ると、
レストレードはうーむと唸り、緑茶の入った湯飲みを握り締めた。

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