+妄想
休日の過ごし方5 (妄想話)

特捜部長室を出たアルが、考え事をしながら廊下を歩いている。
横をウルフがすれ違ったが、それにさえも気付いていない。
ウルフは眉をしかめて、ひょいと片手を伸ばした。
ちょうどその腕に引っかかる形で、アルが進行を止める。

「…驚いた。ウルフか」

ウルフの存在をようやく認識したアルが、顔を上げた。
伸ばした腕をそのまま回して、ウルフはアルの首を引き寄せる。

「どうした? 深刻な顔して、難事件でも発生したってのか?」

「深刻な顔?」

アルは、不思議そうに目を瞬かせる。
自分では気付いていないのか?
その顔を、ウルフが探るように覗き込む。

「FBIの捜査に協力するよう、部長に言われたんだ」

アルは首にまきついた腕を、鬱陶しそうに剥がして押し返す。
重いし、なにより暑苦しい。

「それ、難事件か?」

「知らないよ。詳しい話は、これから会って聞くんだ」

「ふうん。どうせまた、あの目つき悪い陰険FBI野郎だろ」

「リー捜査官のこと? 多分、そうだと思うけど…」

それはちょっと言いすぎだよ、とアルがウルフをたしなめる。
ウルフは軽く口元を歪めた。
アルの頭を悩ませているものが何か、なんとなく分かってきた。

「じゃあ、イブ公がらみの事件かもしんねえな」

「僕もそれを心配してるんだ」

「思い当たるフシでも、あるのか?」

「それは、さっき部長にも同じことを聞かれたよ」

ウルフの問いに、アルが苦笑する。

「ま、そのうちわかるさ」

ウルフはそう笑って、アルの背を叩く。
アルはウルフを見上げて、溜息と共に言葉を吐く。

「お前は、気楽でいいよ…」

「そんなに嫌なら、イブ公の担当なんか辞めちまえ」

「それができないから、苦労してるんだ」

笑ってウルフの胸を叩き返すと、アルは廊下の向こうへと消えた。

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