+妄想
休日の過ごし方9 (妄想話)

イブカはポテト・クリスプスをぼりぼりと頬張りながら、
ホープの店で交わされている会話を、盗聴している。

「ダマされるほーが悪いんだぜ〜」

昨日聞いたアルの話は、ほんの一部分でしかなかったが、
イブカの興味を引くには充分だった。
アルが全てを話さないのは、
イブカが事件に首を突っ込むのを懸念しての事だろうが、
そんな事をされれば、むしろ興味をそそられるに決まっている。

普段よりも上物のスーツを着込んで出かけるアルに、
イブカが冷かしを入れながら、
そのポケットにこっそりと〔うさぎ虫〕を忍ばせたのは今朝のことだ。
完全なる違法、ストーカー行為とも取られる自分へのそれを、
イタズラの範疇で収めてしまえるのは、
イブカの存在を許容しているのか、それとも自身に無頓着なだけか。
アルに限っては、
後の可能性も否定できないことが、イブカのプライドを密かに傷つける。

「おっ、ショーダン成立か〜?」

クリスプスを食べる手を止めて、ヘッドフォンにイブカが集中する。
おもしろ愉快な展開を少しは期待したのだが、
会話が進むうちに、アルは簡単にホープを釣り上げてしまった。

イブカがソファに、ごろりと転がる。
筋書きを知った映画を見るのに似て、案外つまらない。
こうなったら、コイツの隠し口座でも探して遊んでみるか。

イブカは〔シン〕に向かって、コマンドをささやき始めた。
その声が、短く途切れる。
顔をしかめて、イブカが喉を押さえた。

(声が…出ない?)

口を開いて再び試してみるが、
かすれた音が喉を過ぎるばかりで、続いた言葉にならない。

最悪の事態だ。

状況を理解するにつれて、
イブカの頭は、しだいにパニックへと陥っていく。

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