+妄想
休日の過ごし方10 (妄想話)

「あれで良かったんでしょうか…」

ホープの店から商談を終えて出てきたアルが、不安な表情でマオを見上げた。
思ったよりも簡単に事が運んだことを、訝しんでいる。
まるで叱られた犬が、そろりと主人を見上げる目のようだ。
マオの口元に、奇妙な可笑しさが込み上げる。

「上出来だ。どうやら、あの懐中時計は効いたようだな」

「どうして懐中時計が?」

スコープで店内を観察していたマオの言葉に、アルが首を傾げる。
見せてもいない懐中時計が、なぜホープに効くのか分からない。

「君にとっては金に変わらぬ大切な品だろうが、
 ホープは大切なものならば、つまり金目の品だと考えたのさ」

「…なんだか可哀想な人ですね」

胸内にある懐中時計をそっと押さえて、アルが呟く。
そんな同情などされて喜ぶ相手ではなかろうにと、マオは呆れた視線を向ける。

「あの青磁の皿は、とても贋物には見えませんでした」

「店に陳列してあるものは、全て本物だ」

「えっ? そうだったんですか!?」

「あれほど慎重な男だ、贋作をあからさまに店頭に並べはしまいよ」

そういうものなのかと唸るアルを、マオが計るように見つめる。
まったくこの男は、鋭いのか鈍いのか分からない。
中には本物もあるのでは?と、突然訊ねられたときは、
自分の嘘を見抜いた洞察力の鋭さに、思わず舌を巻いたものだったが。

「ともかく、君には礼を言おう」

「は、はい!」

「あとはこちらで、ホープの動きを追う。
 ターゲットを回収するまでは、くれぐれも奴に手を出さないよう頼む」

「わかりました。部長への報告は、僕からもしておきます」

その場でマオと別れて、アルはヤードへと向かった。

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