+妄想
休日の過ごし方26 (妄想話)

ひき逃げ現場近くのパーキングエリア。
主を失った車が、事件当日以降ここに駐車され続けていた。
ホープの顔を覚えていた駐車場の管理人が、警察に連絡してきたのだ。
一応車の中を調べてみたが、これと言った手掛かりはない。

考え込んだままで、どんどん先を歩くアルの後をウルフが続く。
アルの単独行動を懸念して、レストレードが無理やり同行させている。

「なあ、アル」

「なんだ?」

「ホープって野郎とチャイナタウンは、どういう関係があるんだ?」

アルは乗ってきた車の前まで無言で歩いて立ち止まり、
振りかえってウルフを見上げる。

「さっき説明しただろ。
 チャイナタウンで摘発された不法販売取引事件の密売ルートを、
 ホープも利用していた可能性があるんだって」

そんなことぐらいは、ウルフもさっき聞いたと覚えている。
わからないのは理由でなく動機だ。

「いや、だからな。どうしてそいつが殺されるんだ?」

「それは、密売組織との繋がりをFBIに明かされそうになったから…」

と言いかけて、アルが口を閉ざす。
ウルフはボンネットに手を掛けると、身を屈めてアルの顔を覗きこむ。

「な? おかしいだろ?
 その理由だと、困るのはホープも悪人共もおんなじだ。
 殺されるほどの意見の相違がどこにあるのか、オレにはわからん」

「何かあるのかな。
 ホープが生きていると、誰かが困ること…」

「誰かって誰だ?」

「それを調べるのが、僕らの仕事だろ!」

アルはウルフを叱りつけると、車に乗り込みドアを勢い良く閉めた。
呆れたように息を吐いて、ウルフが助手席のドアへと手を伸ばす。

「…ま、ぼんやりと落ち込まれるよりはマシか」

アルの運転する車に乗り込んだウルフは、
少しして、向かう先がヤードではないことに気がついた。

「アル?」

「もう一度、ホープの店に行ってみる。
 近所で聞き込みをすれば、何か分かるかも知れない」

ホープの店の近くで車を降りた後、
ウルフは途中で買いこんだサンドイッチと牛乳のパックをアルの手に乗せると、
少し休んでろと言い残して、周辺の聞き込み捜査を始めた。
昨夜はあまり休んでいないのか、アルの顔色は良くない。
車に残されたアルは、ウルフの言葉に甘えて少しシートに身を傾けたが、
やはり落ちつかなくドアに手を掛けた。

車を降りて、店の周囲をぐるりと見渡してみる。
ちょうど店の裏手に回ると、窓の鍵がかかっていないことに気がついた。
少し迷ったが、窓を開いてカーテンの陰から中の様子を伺ってみれば、
薄暗く不気味に静まり返った店内には、あちこちに物色された跡がある。

(泥棒――!?)

アルがそう思った時、店の中に倒れている人間がいるのに気がついた。
慌てて窓を乗り越えると、その人影に走り寄る。

「大丈夫ですかっ!?」

声をかけて屈み込んだ瞬間、アルは背後から殴られて意識を失った。
床に倒れた男が、それを見て身を起こす。
男は最初から、どこにも怪我などしていなかった。

「こいつ、ホープの仲間か?」

「俺が知るかよ! それより、何か見つかったのか?」

問われた男が首を振って、倒れたアルを見下ろす。
もう一人の男も、促されるように視線を落とす。

「この男が、知っているかも知れないな…」

近所を一回りして来たウルフが、ホープの店の前に戻ってきた。
車の中に、アルの姿は見当たらない。

「…店ん中か?」

店の格子に手をかけて覗きこむ。
ガラスは厚いカーテンで閉じられて、中の様子は伺えない。
何だか、嫌な予感がする。

裏手に回ったウルフは、その予感が現実となったことを知った。

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