+妄想
休日の過ごし方34 (妄想話)

メイフェアのアメリカ大使館。
ちょうど書類に目を通していた大使館員は、
部屋に入ってきたマオの姿に、驚きの表情を向けた。

「どうしたんですか?
 緊急の呼び出しを受けて、一昨日帰国したはずじゃあ…」

「せっかく飛行機のチケットを手配してもらったのに、申し訳ないな」

鋭いマオの視線が、包帯を巻いた男の右手に落ちる。
事情を察した男の腕が、ゆっくりと書類を机の上に手放した。
マオが部屋の奥へと進み、席に座った男の前に立つ。

「ダニエル・アンダーソン。
 情報漏洩および拉致・殺人示唆の容疑で同行を願おう」

「…どうしてバレちゃったんです?」

「数枚の写真と、会話の録音データが入っている」

マオは手にしたカードディスクを、男の目前に示した。

「お前が口封じをしたチャイニーズは、こちらの潜入捜査員だった。
 彼は北京から密売組織の流れを追い、
 ロンドンで摘発情報をリークしている存在を突き止めた」

アメリカ大使館員ダニエル・アンダーソンは、
悪びれた様子もなくマオを見上げて、人の良さそうな微笑を返した。

「あなたのターゲットは、最初から僕だったんですね?
 密売ルートの流れを明確にするために、商品を回収するだなんて。
 ホープを嗅ぎまわっているかのごとく思わせて、僕の動きを探っていたんだ」

騙されましたよ、とアンダーソンが肩をすくめて笑う。

「つまり人の騙し方は、僕よりもあなたの方が1枚上手だったというわけだ」

「全て嘘という訳でもないさ。
 実際これは、ホープの元へと渡った陶磁器の中に隠されていた。
 もっともそれは、当人の預かり知らぬところでの話だったがね」

マオの言葉に、初めてアンダーソンの表情が揺らぐ。
それは罪への悔恨などではなく、自らの失策に対する衝動に過ぎない。
再び厳しい口調で、マオが問いかける。

「なぜチャイニーズ・マフィアに、密売ルートの摘発情報を流した?」

「それは、ノーコメントです」

堂々たる黙秘を告げて、アンダーソンは自らの席を立った。

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