+妄想
優しい毒7 (妄想話)

「これはっ、一体どういうことですかっ!?」

「どういうことって、言われても…」

それは、アルの方が聞きたい。
助けを求めて首を巡らせるが、イブカは見知らぬフリだ。
アイリーンの後に続いて、ウルフがやってくる。
その足も不自然に止まり、含みのある視線がアルに向けられる。

「何だアル、お前も隅におけねぇな」

「ウルフ、お前までっ!?」

「別に、隠すことねえだろ?」

ウルフの台詞に、アイリーンが叫びを上げる。

「やっぱり、そういう事なんですねっ!?
 わたしというものがありながら… フケツです、ワトソンさん!!」

「お、落ち着いて、アイリーン!!」

怒りから泣きに入ったアイリーンを、懸命にアルが宥める。

「ちゃんと説明してくれないと、僕には何だか分からないよ」

「ああ? 身体中いい匂いさせといて、とぼけたって無駄だぜアル」

怪訝な表情を浮かべて、アルがウルフを振り返る。
ウルフは髪を掻きながら、明後日の方向に視線を向ける。

「…匂いだって?」

「だから、オンナと一緒だったんだろ?」

アルの表情が、固まる。
誰が誰と何だって…?
ウルフの意味する内容を、ようやく理解したアルの顔が一気に熱くなる。

「ば…馬鹿言うなッ! これはイブが…イブ!?」

「犬も香りにビンカン、だぜ〜」

イブカは笑って、香水の小瓶を投げ渡す。
難なく片手でキャッチしたウルフが、それを摘んで目線に上げる。

「なんだ、イブ公の仕業か。
 ま、アルに女連れ込むカイショがあるとは、本気で思っちゃいなかったがな」

「やっぱアルが被験体じゃあ、失敗か〜?」

「そんな実験しないでくれよ!!」

アルに叱りつけられて、イブカが楽しげに肩をすくめる。
ウルフは呆れた顔で二人を見下ろすと、香水をアイリーンの手に放る。
受け取ったアイリーンが、大きな目を瞬かせる。

「えっ、じゃあこれって、イブカのイタズラなの?」

「誤解だよ、アイリーン!」

「そうですよね… やっぱり誤解ですよね!?
 わたし、ワトソンさんのこと、信じてますからっ!!」

「真っ先に、疑ってたのはだれだ〜?」

イブカが呟く。
余計な事を口にするなと、アルがイブカを睨む。
幸いにも、アイリーンは気付かなかったようだ。
手にした香水の瓶を、興味深げに眺めている。

「でもコレって、何だか変わった名前の香水ね…」

「そんなに、変な名前なの?」

そういえば、何の香水かを知らない。
アルがアイリーンの手の中を覗き込む。
つられて顔を寄せたウルフが、瓶に書かれた名前を読む。

「優しい毒…?」

ウルフが真っ直ぐに、アルの顔へと目を向ける。
アルは、わけが分からないと言う表情だ。

「こりゃ、お前のセンスか?」

ウルフが振り返り、イブカに問う。
返事はない。
代わりに蒼い瞳が、挑むようにウルフを捕らえる。
それが答えってことかよ。
ウルフが笑う。

「昨日オレを捕まえようとしたヤツ、そいつを顔からブッかけてやったぜ〜」

「ああ?」

「もしかしたら、今日も同じスーツかもな〜?」

「そーか」

ウルフはいきなりアルの頭を掴むと、その髪に鼻を埋める。

「な、何っ…!?」

驚くアルの横で、アイリーンが悲鳴を上げる。

「きゃあ! バカウルフ! わたしのワトソンさんに何するのよッ!?」

「やかましい、こんぐらいでギャーギャーわめくな。
 ラグビーの試合なんか、もっとスゴイ事になってんだぞ!?」

アルの頭から手を離して、ウルフは自分の荷物を投げ渡す。
アイリーンが、慌ててそれを受け止める。

「俺サマは、現場調査に行って来るぜ」

「ええっ!? 待てウルフ、現状の説明くらい聞いてからにしろよ!!」

「そんなもん、お前がメールで送ってよこしたじゃねえかよ」

「そういう問題じゃないよ!」

アルの制止も虚しく、ウルフはホテルのロビーから姿を消す。
それを見送って、イブカも部屋へと姿を消した。

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