+妄想
優しい毒11 (妄想話)

「ええっ!? ワトソンさん、イブカと出かけちゃったんですか〜っ!?」

両手で頬を押さえつつ、アイリーンが悲壮な叫びを上げる。
どっかで見たポーズだな、とウルフが思う。
確か美術の本に載っている、ナントカの叫びというタイトルだ。

「どこ行くんだ?」

踵を返して去ろうとするアイリーンに、ウルフが尋ねる。
亜麻色の長い髪を肩で跳ねて、アイリーンが振り返る。

「決まってるじゃない、ワトソンさんの後を追うのよ!」

「今は、やめとけって!
 あいつは事件で頭が一杯なんだ、イブと違ってお前は重いんだよ」

「それって、わたしがデブだって意味!?」

「違うだろ!!」

腹立たしげに、ウルフが髪を掻きむしる。
首根っこを掴み、満身創痍のアイリーンを引き止めると、
脇に抱えていた箱を、暴れる腕の中に無理矢理押し込める。

「…何よ、これ」

両手の平に乗って余る、四角い箱。
動きを止めたアイリーンが、怪訝な表情で見つめる。

「イブ公が、お前にだとよ。お守りだ〜とか言ってたな」

「お守り?」

そういえば、イブカとそんな話をしたような気もするけど。
でも…そんなわけナイじゃない?
アイリーンの想像以上に中身は重い。
恐ろしげな手付きで、そろそろと箱を開ける。

「あっ!」

アイリーンが言葉を失う。
中を見たウルフが、口笛を鳴らした。

「見た目は悪くねえな」

アイリーンは取り出したそれを、両手で握り締める。
その表情の変化を、ウルフが理解する。
女にプレゼントなんざ、どういう気まぐれかと思ったが、
お守りとは、こういうことか。

「やっぱり、2人を追うわっ!」

「おい、お前オレの話を聞いて――」

「誤解しないでくださいっ。
 わたしは、ワトソンさんに危険がないよう、助けにいくんです!」

「……アルの安全確保は、任務と違うんじゃねえか?」

「これのお礼に、イブカも助けるわよ」

ウルフが吹き出す。
任務も義務も、あったもんじゃねえ。
こいつの言葉は、単純で爽快だ。

「仕方ねえな、オレ様もつきあってやるぜ」

「そんなの別に、頼んでませんっ!」

「エンリョするなって。そのかわり、昼メシはお前のおごりな」

「最初から、それが目的でしょっ!?」

アイリーンがウルフを睨みつける。
ウルフはゲラゲラと笑い、アイリーンを残して歩き出す。

「もうっ、少しは人の話を聞きなさいよ!」

つい先刻、ウルフが言いかけた言葉をそのまま返して、
アイリーンが後を追う。

前へ 次へ 戻る