+妄想
優しい毒12 (妄想話)

突然の電話。
聞き覚えのある声の主に、啓は驚いた。

「マオ?」

『イブカがまた、事件を引き寄せているようだな』

「そんな言い方…イブくんは拉致されそうになった被害者よ」

開口一番のマオのセリフに、啓が呆れた声を出す。

『ふっ、相変わらずだなケイ』

「そういうあなたも、相変わらずのようね」

小さな苦笑。
イブカに関しての議論は、これ以上続けても平行線をたどるしかない。
そう判断したマオは、早々に話題を移す。

『フェアリードを ”売り” に出した人物がいる。
 おそらくそれが、イブカの接触した男と見て間違いないようだ』

「えっ!?」

どうしてと聞きかけて、啓が口を閉ざす。
マオの情報網の広さには、これまでに何度も感心させられた。
行方の知れたイブカの動きなど、離れていてもお見通しなのだ。

『詳細はメールで送っておいた。
 イブカの身辺には、くれぐれも気をつけるのだな』

「あの、ありがとうマオ」

『気にするな。 別にイブカのためだけという、わけではない』

それって、どういう意味なの?
啓の胸が思わず高鳴る。
しかし続くマオの言葉に、それも長くは続かない。

『イブカの安全を護ることは、世界の安全を護ることになるのだからな』

「………そうね」

「ケイ?」

「世界の平和のためにも、お礼を言うわね」

明るく答える啓の、それでいて不穏な空気にマオが戸惑う。
あの朴念仁に、何かを期待した私がバカだったわ…。
啓が大きく肩でため息をつく。

「大丈夫、イブくんは私達の味方よ」

啓は、初めてIbと出会ったミレニアム・ハッカー事件を思い出す。
あれから何度も、あの子は事件の解決を助けてくれたじゃない。
そう自分に、言い聞かせる。

『間違えるな、ケイ』

マオの鋭い声が、電話向こうで響く。

『イブカは何も、正義のために自身の力を使うわけではないのだ。
 イブカにとって善悪など関係ない。
 これまでがそうだからと言って、今回もそうだとは限らないのだぞ』

「それは…」

『あまり油断しないことだな』



切れた電話に、啓がぼんやりと目を送る。
何と言い返せば良かったのだろう?

私は、イブくんを信じているわ。
でも同時に、
あの子の心が、時折違う場所にあるのも感じている…

アルなら、何と答えたのかしら。
何か言いたげに口を閉ざした彼の姿を、啓は思い出す。

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