+妄想
優しい毒15 (妄想話)

「悪者め、覚悟しやがれ!!」

聞き覚えのある叫び声、同時に銃声が響く!!
銃弾はアルの右脇をかすめて、硝煙の臭いと共に地面をえぐる。
後方から飛び出して来たウルフが、出会い頭に男を殴り倒した。
続いて膝蹴りを、倒れ込む男の腹にすかさず入れる。

「動かないで! 動くと撃ちますよっ!!」

拳銃を手にしたアイリーンは、もう一方の男に向けて警告する。

「くっ…」

言葉は分からない。
だが、アイリーンの自信に満ちた構えから、動けば撃つという意志が伝わる。
男は躊躇いがちに動きを止めた。
我に返ったアルが慌てて飛びつき、その腕を奪う。
後ろ手に関節をひねり、体重を寄せて身体を地面に押さえ込む。

「おい、そっちは大丈夫か!?」

意識を失った男を足元に、ウルフが叫ぶ。
アルはイブカの無事を確認すると、頷いて身体の力を抜いた。
緊張で、手の平には汗が浮かんでいる。

「アイリーン、それにウルフも一体どうして…」

「何だか心配だったから、急いで後を追って来たんですっ!」

すると後をつけていた方は、この二人だったのか。
アルの目が、アイリーンの手に止まる。
確か今回は、拳銃の所持は許可されていなかったはずだが。

「その銃は…?」

「コルト M1991A1 TRC ビューロモデル、限定カスタム仕様だぜ〜っ!!」

自信満々に、答えたのはイブカだ。

「…モデルガンなのかっ!?」

「弾なら出るぞ〜?」

弾が出る、ということはエアーガンか。
しかしどちらにしろ、ハッタリであることには違いない。

「うふふっ、BB弾も当たると結構痛いですよ〜」

「HIT RATE もチューニング済みだしな〜」

「あらっ、射撃手の腕が良いもの、命中率が最高なのは当たり前でしょ!」

お守り、だものね。
ありがとう、とアイリーンがイブカに囁く。
無邪気にはしゃぐ2人の様子に唖然としながら、アルが深くため息をつく。

「まったく…2人とも、あんまり無茶しないでくれよ。
 それにイブも、逃げろって言っただろ!?」

「よけーなお世話だ〜」

揺るぎのない強さで答えるイブカに、アルは厳しい目を向ける。
アルは怒っていた。

「君の安全を護るのは僕の任務だ。
 だから君がどう思おうと、それは変えられない」

「けっ、 オレに助けられといて、言うセリフかね〜?」

「くっ…」

返す言葉もない。
イブカはそのまま、どこへ行くとも告げずに歩き去る。
アイリーンが戸惑いながら、アルとイブカの交互に目を向けている。
ウルフが首を先に振り、行動を促した。
アイリーンは頷いて、イブカの後を追いかける。

散々殴り倒されて、意識を失った男をウルフが担ぎ上げると、
重石の代わりだとばかりに、アルの組み敷く男に乗せる。
轢き殺した蛙のような悲鳴があがるが、ウルフはきっぱり無視した。

「ICPOのねーさんに連絡して、こいつらを引きとってもらえや」

「…わかった」

アルは力なく答えると、取り出した携帯で啓に連絡を入れる。
アイリーンは、イブに追いつけただろうか?
不器用な友人を見つめながら、ウルフは考える。
ダメかも知れねえな。
ヤツが本気を出して消えるなら、アイリーンなんか相手じゃない。

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