LA VIE EN ROSE 5 (妄想話)
「バラ色の人生を送りたいか、だって?」
サウスケンジントンのフラット。
ベットの上に広げた旅行鞄へと、荒々しく着替えを叩き込むアルがいる。
『ヒースロー空港から、イブカが日本行きの飛行機に乗った』
イブカが消えた午後、
レストレード部長からの連絡で、アルはその事実を知らされた。
MI6にしばらく様子を任せてはという部長の言葉に、
『行きます』と、即答する。
爆破事件のことを気遣われているのは、アルにも分かっている。
だがそれに甘えて、自分の役割を疎かにするのは嫌だった。
何よりも、去り際に残したイブカの言葉が気に食わない。
よりにもよって、LA VIE EN ROSE だなんて。
「…僕が望んでいるのは、普通の幸せだけだ!」
ウルフとエド、僕の3人が、今も同じ時を生きていて。
仕事帰りにパブで、ラグビーの試合について語り合ったりする、
欲しかったのは、そんなどこにでもある日常。
あの時のことを思い出す度に、
ほんの少し、運命が変わっていたらと考えずにはいられない。
そんなのは誰だって、当然のことじゃないか。
アルの脳裏に、イブカの冷たい怒りが蘇る。
ささやきよりも鋭くアルの息を止めた、責めるようなあの視線。
その記憶を払えるかのように、アルが頭を振る。
冗談じゃない、怒りたいのはこっちの方だ。
「いつもいつもいつも!
自分から危ない事件に巻き込まれて、心配かけるくせに!!」
ベッドの上で、荷物を詰め込まれた鞄が勢い良く跳ねる。
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