LA VIE EN ROSE 6 (妄想話)
成田空港に降り立ったイブカは、
機内から放たれた広い空間に大きく伸びをした。
手には、自販機で買ったばかりのコーラの缶を握っている。
飛び乗ったのはロンドンを夕刻に飛び立った直行便だったが、
時差のために東京は午後を回っていた。
「トーキョーだぜ〜!」
イブカは1人つぶやいて、ブラブラとターミナルを歩き出す。
勢いのまま飛び出してきたのはいいが、特にアテがあるわけではない。
まずは、うまいモノでも喰っかー。
どこに行くかは、それから考えればいい。
ばーちゃんのところは、すぐにバレるからダメだ。
そんなに簡単に捕まったら、面白くないよな〜?
今頃は出張の荷造りでもしているだろう、
異国のアルに向けた言葉を、イブカは〔シン〕につぶやく。
簡単なことだ。
イブカを捕らえることのない、遠いアルの瞳。
まるで、あいつらがオレの存在を殺すように――
本当はそれがたまらなくて、自分は逃げ出してきたのだ。
…信じらんねえ。
コーラ缶のプルタブを引いて口に含めば、炭酸の効いた甘さが広がる。
イブカは濡れた口元を袖で拭うと、
それとは反対に、胸に落ちいる苦々しさに自嘲する。
この世界から足を踏み出していることなんて、慣れきっているはずだったのに。
どこまでも甘い砂糖菓子に、いつのまにか舌を狂わされている。
成田エクスプレスに向かうエスカレーターを降りたところで、
イブカは国内線に乗りかえるかを、僅かに思巡した。
ちょうどその時、ヘッドフォンに〔シン〕がメールの着信を告げる。
「アルのヤツか〜?」
イブカが首を傾げて、手首のモニターに表示をさせる。
それを見つめた蒼い瞳が、ゆっくりと細められていく。
国内線だ。
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