LA VIE EN ROSE 8 (妄想話)
「考えが安直だぜ、ワトソンくん〜」
ニヤリと笑って、イブカが呟いた。
先刻に祖母から届いたメールの文面は、
アルがイブカの消息を尋ねたことを明らかに告げている。
成田から国内線を乗り継ぎ、関西空港(KIX)に到着したのは昨日のことだ。
宿泊しているホテルを後にして、イブカは夜の大阪繁華街を歩いていた。
「Ib、こっちやでぇ〜!」
「おっ!?」
イブカが視線を向けた先で、織部絹江が大きく手を振っている。
叫び声を上げる着物美人に周囲の注目が集まるが、
本人は全く気にしていないようだ。
その隣に静かに立つ刑部義範が、イブカに丁寧なお辞儀をする。
「ギョーブさん、こんにちは」
「イブさんも、お元気そうで何よりです」
ぺこりとお辞儀を返すイブカに、刑部がにこりと笑う。
それを見た絹江が、ぷう、と頬を膨らませる。
「あんたも、相変わらずやなあ。
もっと感動的な再会の言葉は、あらへんのん?」
「おまえも相変わらず、だぜ〜」
「相変わらず、何なん?
はっきり、ウチがべっぴんや言うて構へんで」
イブカはモゴモゴと口の中で、何かを呟いた。
二人のやりとりを笑って聞いていた刑部が、やんわりと割って入る。
「もう御一方も、来られたようですよ」
「もー1人?」
イブカが振り向くのと同時に、驚き声が上がる。
「イブくん!?」
「おっ、おまえ生きてたのか〜」
現れた潤の姿に、イブカがつれなく答える。
潤は壊れかけた人形のように、刑部と絹江にぎこちない挨拶をした。
「イギリスは、もー飽きたのか」
「ち、違うよ!」
言葉と共にイブカに視線を戻した潤は、空港での事を思い出した。
さりげない様子を装い、尋ねてみる。
「それより、イブくんはどうして大阪に?」
「オーサカ?」
イブカが怪訝に瞳を細めた。
どうして日本にと問うならば分かる。
だが潤は、なぜ大阪にいるのかと尋ねた。
「オレが日本にいるって、啓から聞いたのか?」
「えっ」
「ま、いーけどな」
イブカはくるりと、絹江を振り返る。
「腹減ったぜ〜」
「そやな、早よいこか!」
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